「得意って……」
顔が熱くなる。
その言い方、好きより恥ずかしいんだけど……。
なのに広瀬くんは、いつになく真面目だから、調子が狂ってしまう。
でもーー
きみがあまりにも普通にしているから、ときどき忘れそうになってしまうけれど。
きみとわたしの感覚は、違うんだ。
どうしたって、埋められないくらい。
「補聴器をつけてても、聴こえないことがあるの?」
いままで気になっていたこと、でも訊けなかったことを、思いきって尋ねた。
なんとなく、触れてはいけない気がして、訊けなかった。
だけど、もっと、知りたいと思った。
「あるよ。もちろん」
と広瀬くんは言った。
「……授業で言ってることとかも?」
「うん。まあ、おれがバカなのは勉強してないからなんだけどね」
「そう、なんだ」
きみはなんてことないように笑うけれど、わたしはうまく笑えなかった。
そうつぶやいて、無意識にじぶんの耳に触れてみる。
普段はとくべつ意識もしない、当たり前に、正常に、機能しているそれが、なんだか、異質なものに思えた。
日常生活で、聴きやすい音と聴きにくい音があるなんて、知らなかった。気にしたこともなかった。全部聴こえることが、当たり前だったから。
と、手が伸びてきて、わたしの頭をくしゃっと撫でる。
「また難しいこと考えてる」
「う……」
そうだ。普通にしていようと思うのに、ちょっとしたことが気になって、いろいろ考えてしまう。
「愛音はそんなの、べつに気にしなくていいから。普通に話してくれればそれでいいから」
「そう、だね」
わたしはぎこちなく笑って頷いた。