だんだん夕暮れが近づいてくる。あたりの芝生にほんのり淡い影が差して、ぱっと街灯が点いた。夜というにはまだ少し早い時間けれど、蛍光灯の明かりは夜だと認識したみたいだった。
「ここまでは分かる?」
「うん。あのさ」
「ん?」
「愛音の声って、なんか心地いいな」
「……は?」
真剣に聞いていたかと思えば、いきなりなにを言い出すんだ、この人。
「おれ、愛音の声好きだなと思って」
「な、なに言ってんの?」
突然の慣れない言葉に、わたしは動揺する。
心地いいとか、好きとかーー
勉強しすぎて頭沸いた?いや、そんなしてないと思うけど。
いつもみたいに、冗談っぽく笑うのかと思った。でも、きみは笑わなかった。
「普通の人には、あんまりわからないと思うけど」
と、広瀬くんはわたしをまっすぐに見つめて、落ち着いた声で話す。
「おれには、聴き取りやすい音と聴き取りにくい音があるんだ。人によって、それが高音とか低音とかあるんだけど。愛音の声は聴き取りやすいし、聴いてて心地いい。おれにとって、得意な音だよ」