「カレン、ちゃんと見張っていてよ。この子、いつ魔法を使うかわからないんだから」

​「テト!」

​「ソフィア、いざとなったら私たちに任せてくれる。あなたを守るために、私とロキは一緒に来たんだから」

​「……ありがとう、助かるわ」

​そうなると、今回は本当に魔法を使う機会がなさそうだ。

​それはそれで、来た意味がないというか……。

​いや、でも魔法以外でも何か役に立てるかもしれない。

アレスの役に立ちたくて、身につけたのは魔法だけじゃない。

魔法以外のことでアレスを支えられるように頑張れば――

​と、そう考えていた時だった。部屋の外から聞き覚えのある声が扉越しに聞こえてきた。

​「いいだろ! ちょっとくらい!」

​「いい加減にしろ! カレンに殺されるぞ!」

​アレスとロキの声だ。

二人の剣幕からして、何か言い争っているようだが、私にはその理由が分からず首を傾げた。

​しかし、隣にいたカレンは二人の会話の内容を理解しているようだった。

鋭い目で扉を睨みつけ、体から冷気を放つ様子から、相当怒っているのが伝わってくる。

​「カレンはあなたを守るために着いて来たって言ったけど、まったく……ロキは一体何のために着いてきたのかしら」

​「さ、さあ……」

​カレンは扉に向かって歩き出すと、軽くこちらを振り返った。

​「ソフィア、少し待っていてちょうだい。服はきちんと着ておくのよ」

​「は、はい!」

​な、なんだか怖い……。

​カレンは扉を開け、私の姿がロキに見えないようにすぐに閉める。

そして――
​「氷の拳(グラースフィスト)!」

​その後に、部屋の外からロキの絶叫が聞こえてきたのは言うまでもない。

​「ま、自業自得ね」

​「あ、ははは……」

​一体ロキは何をしたかったんだろう……。

​ひとまずロキのことは後回しにして服を着替え終えた時、一仕事を終えたカレンが深く息を吐きながら部屋へ戻ってきた。