「ただサファイアに認められたってだけなのに、その力を完璧に使いこなしているわけでもないのに、魔剣を一本手にしただけで、そんなにすごいことなのか?」

​お兄様の言葉を聞いて、私はそこで初めて悟った。私という存在は、ただ魔剣が一本追加されただけの存在にすぎなかった。

たったそれだけのことで、私は特別な存在になったのだと勘違いしてしまっていたのだ。

​お兄様は、私から目をそらし、苦しそうに続けた。

​「カレン……お前が魔剣なんかに認められなければ、俺は今でも純粋な気持ちでお前を妹と思えただろうな。でも、今は無理だ。だって今のお前は【氷の女神の加護を受けし少女】であって、周りの子とは存在する価値が違う。それが俺の妹だなんて……とても苦痛だ」

​その言葉が、私の心臓をえぐり取った。

お兄様にこんなにも辛い表情をさせているのが自分だと思うと、自分の存在が怖くなった。

私は、大好きだったお兄様の人生をめちゃくちゃにしてしまったのだ。

​もし、私がサファイアに選ばれていなかったら、お兄様は今でも人のためになる研究を続けていたかもしれない。

黒の魔法教団なんて組織が生まれることもなく、お兄様が闇魔法に手を出してしまうこともなかったかもしれない。

​だから、こんな私がロキと肩を並べて、同じ場所に立てるはずがないんだ。

​そう思い、私はお兄様が家を出ていったことをきっかけに、ロキと距離を置くようにした。

魔法学校を卒業するまで、私はロキを避け続けた。いつしか、お互い目を合わせて話すことすらなくなっていた。

学校の廊下ですれ違っても、街で偶然会っても、決して目を合わせることはなかった。

​それから、先生が旅に出るのを見送って二年が経った頃、私は魔法協会から『氷結の魔道士』の称号を授与されることになった。

​授与式に参加した時、そこにロキの姿があった。

どうして彼がここにいるのだろう、と混乱した。

すると、魔法協会の最高司祭であるミカエル様の声が聞こえてきた。

​「ロキ君も今日の授与式で称号を受け取るんだ」

​ミカエル様の言葉に、私は思わずロキに目を向けた。

ロキは私の視線に気づくと、まっすぐこちらへ歩いてきた。久しぶりに彼の姿を真正面から見て、私は少し後ずさった。

​しかしロキは、そんな私を気にする様子もなく、私の前に立つと突然、昔と変わらない満面の笑みを浮かべた。