本当ならば。

 バイトや仕事を平気でサボっても大丈夫なのはそれこそ奇跡のように特別な人間なだけなのに、神崎奇跡はたった一言でそんな疑念を吹っ飛ばしてしまう。

 だからこそ、彼女に背中を押されたくて、あの不思議な力のある言葉が欲しくて、沢山の人が神崎奇跡を神様と呼んで彼女の足元に群がったのだ。

 でも、もう、ここにはあの美しい神様はいない。

 ならば、決断をするのは自分しかいないのだ。この、凡庸でどこまでも普通の女である自分しか。

「ねえ、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

 奇跡そっくりの少女が、こてんと首を傾げた。

「夏休みね、旅行に行こうと思うよ」

『旅行かあ』

「うん。ヒメムラサキも一緒に来てくれる?」

 にこりと笑って、私の……否、奇跡のT.S.U.K.U.M.O.は胸をはる。

『もっちろん!』