「……え?」

 才谷杏子の声が蘇る。

 神崎奇跡は、殺された。

 彼女のその言葉は、どこにでもあるような自分を特別な存在として憐れむための戯言だったけれど。

「それって、誰に?」

『わかんない。ヒメはいつもこうやって家でお留守番してたから。あの、旅行のときも、どうしてかヒメは連れてってもらえなかった』

 付喪神、という概念をベースとしたオペレーティングシステムであるT.S.U.K.U.M.O.は原則としてはその依り代として設定されたものから離れることはできない。

 奇跡が、家にスマホ端末を置いていってしまったのならば、ヒメムラサキはそこから離れることは叶わないのだ。

「わかんないって、そんな」

『でもね、はるちゃん』

 ヒメムラサキは言う。

 寝乱れた艶やかな黒髪のおかっぱから、花の香りがする――気がする。

『よかったら。ヒメと一緒に奇跡の生きてた頃のこと、追いかけてみない?』

 そうしたら、何かがわかるかも。

 思わず、私はこくりと頷いた。

 私は、神崎奇跡が大嫌いだ。

 けれども、無性に、その最期のことを知りたいと思った。

 何もかもがわからない、その死の理由を、知りたいと思った。