神崎奇跡の話題を、こうして誰かと渡って話せる日が来るなんて思わなかった。

 ヒメムラサキは、心地よい。

 だって、姉を、神崎奇跡という存在を、崇拝も畏怖もしていないから。

 T.S.U.K.U.M.O.の目線で語られるとき、神崎奇跡はどこにでもいる普通の女性だ。

「……ねえ、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

 かつて奇跡が妹の私に呼び掛けたように、小さな付喪神は言う。

 私はその小さな体を抱きしめて、囁くように問いかける。

「奇跡は、どうして死んだんだろう」

 沈黙、沈黙。

 常夜灯のオレンジに照らされて、ヒメムラサキは目を閉じる。

 その横顔は、遠い日の記憶を揺さぶる。

 あれは、山之上神社で、――そう、なにか、大切なことを思い出しそうな。

 ぐずぐずと燻る海馬に、ヒメムラサキの鈴が転がるような声が響く。

『奇跡はね、殺されたんだよ』