神崎奇跡は、神様だ。

 そう言われている背景には、彼女があまりにも人の気持ちというものに対して超然としていたという事実もあるのだと思う。

 蝉の抜け殻に恋をして、比喩ではなく人間を出がらしの茶葉に似ているとのたまう女である。

 そんな人間の価値観なんて、私たち凡人には分からない。

 私は、展望台をあとにする。

 才谷の泣き声が響いていた。

 あれは、たぶん神崎奇跡を前にして「気持ちを繋げることができる」と信じてしまった女の悲劇だ。

 奇跡の気持ちはわからない。
 あまりにも、わからない。

 ――でもたぶん、人の気持ちなんて本当は他の人にはわからないはずなんだ。