くく、と才谷は肩を揺らす。
目は見開いて、瞳孔も開いているような気がする。
「……私ね、奇跡さんのこと大好きだったの」
「ええ」
「だから、だからね、私、奇跡さんの前に跪いて、この場所で、愛してるって伝えたんだ。初めて、言葉に出して」
遠く、遠くに、日が沈む。
橙色に、紫に、紺色に。変わっていく空と雲の色。
「姉は、なんて言ったんですか」
「なんて言ったと思う? 奇跡さんは、こういったんだよ」
不意に私の腕を、才谷のよく手入れされた筋張った手がつかむ。
深く、深く、才谷はため息をつく。肺腑の中の空気が全部出てしまうんじゃないかと思うくらいの深いため息。
「――『私には恋している人がいるけれど、いいかしら。その人は――』」
ぎり、と、赤く塗られた爪が、私の腕に食い込んでいく。
「『その人は、私の、愛しい愛しい……妹なのよ』、って。奇跡さんはそう言ったの」