才谷はなおも語る。

「その後もね、なんども奇跡さんの家に行って、バイトをサボったの。合鍵の場所も教えてもらったし、一緒に寝たし、シャワーも貸してもらった。私の歯ブラシ、あの家にあったんじゃない? だから、――私は、奇跡さんの恋人だよ。誰が、何と言おうとも」

 言って、才谷は炭酸ドリンクを飲み干す。

 私のコーヒーはすっかり冷めていた。才谷にならって、もちもちドーナツの最後のひとかけらを口に放り込む。砂糖がサクサクしていた。

 バイクの二人乗り、という人生で初めての経験で気づいたことがある。

 運転手と後部座席に乗る人間との密着度がとても高いということだ。

 それに伴い、才谷がつけている香水がちょっとお寺っぽい匂いがすることがわかった。

「間に合ってよかった」

 そう言って才谷が連れて行ってくれたのは、横浜の背の高いマリンなタワーだった。