ふらふらと人の気配のないゴールデン街を見て回って、近くのドーナツ屋でお茶をした。

 もちもちのリング、おいしい。

 時刻は三時。

 才谷は輝かしいビタミンカラーの炭酸ドリンクを飲んでいる。

 私はブラックコーヒーが好きだ。

 何の特徴もない顔立ちと頼りなくて幼く見える私の外見に似合わないのは知っているけれど。

 神崎奇跡は、それこそ中学生のころからブラックコーヒーやミネラルウォーターのようなそっけない飲み物がよく似合っていたのを思い出す。

 特別な人間なのだ、あれは。

「才谷さんは、姉とお付き合いをしていたんですよね」

「うん」

「なれそめとか、聞かせていただいてもいいですか」

 奇跡のバーチャルアシスタントだったヒメムラサキが、『知らない』と言い放った才谷杏子という女。

 彼女が奇跡の恋人だったというのが、嘘でも妄想でも興味はない。

 よく奇跡を妄信していた人間で、同じようなことを言い始める人はいたし、なんどか実家に突撃してきたそういう人たちを奇跡自らが何らかの言葉でズタズタに撃退するのを何度も見たから。

「なれそめかぁ。そうだね……」

 遠くを眺めて、才谷はドリンクを一口すすった。

「あれは、四年前かな」

「四年前……ですか」

 ちょうど、奇跡が急にさしたる理由もなく大学を辞めたころだろうか。