奇跡が中学生だったときだ。
彼女の机の周りは彼女と一言喋りたいという人間であふれかえっていたと聞いた。
私が入学したときに聞いた伝説となった卒業生としての奇跡の逸話では、その行列はなんと校舎をぐるりと一周して学校の外にまで伸びていたとか何とか。
それはさすがに冗談だろうけれども、「ありえるかもしれない」という風に思わせるところが、神崎奇跡の神崎奇跡たるゆえんなのである。
ちなみに、奇跡の卒業と同時に入学した私はそれから三年間、教員にも先輩にも「へえ、妹は案外普通なんだね」というたぐいの言葉を投げつけられ続けた。
すこしばかりの落胆と一緒に吐かれる言葉は私をひどく傷つけた。
私は、神様みたいな姉とは違う私は、ただ私なだけなのに。
「いまでも、なんか伝説的なママみたい。奇跡さん」
「才谷さんは、あまりここには来ないんですか」
「奇跡さんがいないんじゃあ、来る意味ないよ。それから、才谷さんはやめて。杏子でいいよ」
「いやあ、そんな親しくもないですし」
呼び方を指定してくる人、私はちょっと苦手だ。