ゴールデン街というのは何本も似たような通りがあって、細い細い裏路地でつながれている。

 その裏路地にも店舗の入り口らしきものがある。

 そんな道をいくつか歩いて、ある店の前で才谷は足を止めた。

「奇跡さんはね、この店のママだったの」

「えっ」

 この店、と才谷が指さしたのは、金太郎飴みたいに同じような店構えのオンボロ飲み屋の一軒だった。

 看板には『物語』と書いてある。

 それが店名なのだろうか。

「ここで、姉がママを?」

「そう。っていっても、水曜日限定だけどね。毎日店長が変わるのよ、この店」

「へえ……」

 そういうシステムなのか。なんだか想像がつかない。

「そこで、姉が一日店長を」

「そう。それはもう、毎週毎週お客さんが増えてってね、奇跡さんに会いたいっていう人が殺到して最後には近隣からクレームが来ちゃって。それで水曜日の店長の権利は他の人にゆずっちゃった」