才谷がゴールデン街にひしめく看板を指さして、ひとつひとつ説明をはじめる。

「この店は、カラオケパブでね。外国人観光客がめっちゃ多い」

「へえ」

「奇跡さんのお気に入りの店だったんだよ」

「ええええええっ?」

「そんなに驚く?」

「あの人、カラオケとか行くんですか?」

「そりゃあ、行くんじゃない?」

「す、すみません大きい声出して。実家にいるときの姉は、アリの飼育以外には特に興味がなさそうでしたので」

「アリの飼育」

「夏休みのたびにやってましたね」

「へ、へえ」

「ちなみに姉は、カラオケで何を歌うんですか。完全な興味本位の質問ですけど」

「そうだね、『おどるポンポコリン』とか」

「ええ……」

 外国人観光客であふれる新宿ゴールデン街で、『踊るポンポコリン』。

「ちなみに、ここだけの話めちゃくちゃ音痴だった」

「まじですか」

「だけど、いつも拍手喝采でね。なんか感動して泣いてる外国人もいたよ」

「あー……」

 私は頭を抱える。

 神崎奇跡は、そういう女なのだ。

 謎のカリスマですべてをねじ伏せる、トリックスターにしてワイルドカードであり、そしてデウス・エクス・マキナ。

 そんな女なのだ。

 凡人の私には、一万年経ってもできそうにないことを平然とやってのける。そういう女だ。