時刻は、午後一時。
お昼休みの後は、街も気だるい。
やってきた。ここは新宿繁華街。
大通りから一本入った裏通り、一軒も店は開いていない。
建物もひどく古びていて、まるで廃墟の町みたい。
「ここは……?」
「ゴールデン街。初めて?」
「初めてです」
無理を言って実家を飛び出してきた手前、生活費を自分のアルバイトで稼いだお金で賄っていた。
家賃の一部もだ。
だから、いわゆるサークルにも所属せず、それにともなって夜の街を飲み歩いたりということもしてこなかった。
大学生らしからぬ真面目さ。
凡庸な自分には、これくらいの地味な生活が身の丈に合っている気がして心地よかった。
昼下がりに眠った歓楽街、というにはレトロな一角。
ドアもなんだか小さい。
昭和の規格なのだろうか、なんだか作り物みたいなミニチュア感があるなと思った。
それでも、ここがアンダーグラウンドな場所だということはなんとなく漂う酒精の気配とアンモニア臭さで察しが付く。
夜になり、看板に灯がともったならばこの町は蘇るのだろうと思った。
失礼ながら、才谷に似合いの場所だと思った。
退廃的で、それでいて生命力にあふれている。