狼狽える私に、才谷さんは愉快そうに笑う。

「細かいことはいいからさ……ほいっ!」

「わっ」

 才谷が何かを投げつけてきた。

 ぼすん、と胸にあたって落ちたものを両手でキャッチする。

 つるりとした流線形。

 ヘルメットだ。

「はい、乗って乗って」

「え、あ、いや」

「バイト?」

「えい、今日は休みですけど」

「レポート?」

「特には……」

「それともデートの予定でも?」

「全然ないです」

 いくつかの質疑応答。

「――じゃあ、ちょっくら付き合ってよ」

 と、才谷はルージュに彩られた唇を形よく釣り上げて笑う。