「これ、就活ガイド。こないだのセミナーで貰ったの。よかったら、使う?」
「え、と」
分厚い冊子には、いくつもちっぽけな付箋がついている。美鈴が真面目に読み込んだ痕跡が見て取れた。
私はのばしかけた手を引っ込める。
「ごめん、遠慮しとく」
昔から、中古品が嫌いだった。
それは前の持ち主の「何か」が染み付いているようで、どんなに長く所有しても自分のものにならないものだから。
それに、美鈴が目指す未来だとか、美鈴の価値観だとかが、その付箋から染み出して見えてきそうで怖かった。
「ん、そっか」
美鈴は、あっさりと就活ガイドを引っ込めた。
私は美鈴の、こういうところが結構好きだ。
ちゅるちゅるときつねうどんを平らげた美鈴は、
「ああ、そうだ」
と声を上げた。
「校門のところにさ、めっちゃ格好いいお姉さんいたんだよね!」
「かっこいい、お姉さん?」
「そ。服とか、マジで好みだわ! 誰か待ってる風だったんだけど、見たことない人だったよ」
「そうなんだ」
「いやあ、私も早くまた髪染めてえわぁ」
と、美鈴は快活に笑った。
「ちなみに、」
なんとなく、私はある予感を覚えながら美鈴に聞いてみる。
「校門にいた女の人って、どんな人?」
「え? 髪の毛がウルフカットでさ、夏ミカンみたいな色してんの!」
柑橘系の髪色の、ベリーショートの、かっこいい女性。
――まさか。