しばらく茫然としてから、奇跡の部屋を立ち去ることにした。

 遺品整理、と言いつつも僅かな衣服や装飾品を除けばどこにでもある量産品の生活必需品しかない部屋だったのだ。

 あとは母親が、晴れ着からゴミ袋まで全部実家に引き上げるだろう。

 ガスメーターの中にあるという合鍵はそのまま残されていたので、それで戸締りをして帰路につく。

「あれ、そういえば……」

 ふと、私は疑問を覚える。

 もしも、才谷杏子がただのヤベェやつ……つまり、奇跡の『彼女』をかたる妄想癖の持ち主だとしたら。

 そういえば、どうして才谷は合鍵の場所を知っていたのだろうか。

 やっぱり本当に、恋人だった?
 ないしは……ストーカー⁉

 もやもやと考えながら、奇跡の住んでいた町をあとにする。

 ……ちなみにチェーンは、やっぱり切断されていた。