『ねえねえ。はるちゃん、どうしたの。あれ、っていうか~』
こてん、とヒメムラサキは首を傾げた。
『その人、誰?』
「……えっ?」
ヒメムラサキの言葉に、私は凍り付いた。
スマートフォンの擬人化ともいうべき、T.S.U.K.U.M.O.システム。
私は神崎奇跡の遺言に従って、その端末ごとそれを相続するに至ったわけだが。
それはつまり――姉の交友関係ごと引き継いだというわけだ。
実際、ヒメムラサキの契約者更新に先立って、奇跡の葬儀では関係各所への連絡はこの携帯端末に入っている連絡先を利用して行った。
ヒメムラサキは、奇跡の交友関係をある程度は網羅しているはずだ。
「なに、そいつ。もしかしてツクモ? 奇跡さんの個人利用の?」
「そう、ですけど……」
「へぇ」
おかしな反応だ。
神崎奇跡の『恋人』を名乗る人間をヒメムラサキが知らないということはあり得るのだろうか?