ヒメムラサキの、すっかりなじんだその声に。

 はた、と私は現実に引き戻される。

「……なに、誰かいるの?」

 才谷の声が怪訝そうに曇る。

 いや、そうじゃん。この人、不法侵入の不審者だ。

「ヒメムラサキ、顕現して!」

 声にこたえて実体化したヒメムラサキのほうにあわあわと身を寄せる。

「うわあ!」

 慌てていたのか、けっつまずいて。

 ヒメムラサキの身体に、抱き着くかたちで転んでしまった。

 中学生くらいの少女に、成人女性が縋り付いているのはなかなかシュールな絵面だろうが仕方がない。

『わお、はるちゃん大胆!』

 初対面の人物と。
 というか、姉の恋人を名乗るちょっと言動の不穏な女と密室で二人きりという状況は、結構なストレスだったわけである。