目の前に立つ才谷杏子を、まじまじと見る。

 あの奇跡の恋人、というだけあって才谷さんも不思議な雰囲気を持つ人だった。

 少なくとも、いきなりビンタを食らっても怒る気になれなかったくらいには。

「さっきはごめん。急に叩いて」

「え、いえ」

「別に許さなくてもいいし、許すの保留にしてもいい」

「……そんなこと、考えたこともなかったです」

「そう。その権利はあんたにあるんだよ。少なくとも、奇跡さんならそう言うと思う。ああ、奇跡さんの妹さん、あなた名前は?」

「神崎はるか」

 名前を尋ねられて。

 奇跡はこの人に私のことを話していないのか、と急に冷めた気持ちになった。

 ヒメムラサキが当然のように私はもちろん奇跡と私にまつわる思い出について色々と知っていたから、てっきり奇跡は色々な人に妹の存在を話しているものだとばかり思っていた。

 期待していた、と言ってもいいかもしれない。