実をいうと笑い事ではない。

　あれは、奇跡が中学生のときだっただろうか。

　神々しいまでの美貌や中学生離れした佇まいというハードルを乗り越えて同級生の男の子が奇跡に告白をしてきたときのことだ。

　それくらいに、図太くて図々しい男の子だったんだと思う。

　そんな男の子が、震える声で。

　顔を真っ赤にして。

　商店街の花屋で買ったのだろう、しゃれっ気もくそもない一輪の花を差し出して、『俺と付き合ってください！』なんていう笑えるくらいに陳腐な告白を叫んだ同級生男子。

　その横に当時まだランドセルを背負っていた私がいたのは、彼の目には映らなかったようだった。

　あろうことか、その男の子の顔をまじまじと見て奇跡は言ったのだ。

『ごめんなさいね。私には恋人がいるの』

　と。

　付き合っている人がいるなんて聞いたことがなかった。
　当時、小学生だった私はすこし驚いた。

　けれど、その次に飛び出した奇跡の言葉に、さらに驚かされる羽目になった。

『これが、私の恋人なの』

　と、奇跡がボケットから取り出したのは。