神崎奇跡は、特別な存在。

 私は、凡庸な存在。

 それは厳然として存在する事実で、決して覆らない。

 だから、神様みたいに完璧な神崎奇跡という存在を汚さないように、息をひそめて、縮こまって、生きていた。

***

 さて、修羅場である。

 急逝した姉、神崎奇跡の住んでいた部屋で遺品整理の途中うっかり昼寝をしていた。

 目が覚めると、一緒に寝ていたはずのバーチャルアシスタント、仮想神格システムT.S.U.K.U.M.O.のヒメムラサキは母船である携帯端末の電池切れで実体を失っていた。

 ガチャガチャ、という音に来訪者の気配を感じて起きだしてみれば、玄関にはすらりと背の高いクールな美女が経っていた。

 てっきり、口論の末にこの部屋を飛び出していった母が帰ってきたのだろうと思っていた私は驚いた。

 美女のバレンシアオレンジみたいな色のベリーショートの髪が眩しい。

 ぴったりとした黒いスキニーパンツに、黒い合皮のジャンパー。
 耳にはぶっといピアス。
 ルージュは見たことのないような赤黒い色をしていた。

 神崎奇跡は、それこそ神様みたいに美しい女性だったけれどそれとはまったくベクトルの違う美女だ。

 なんというか、生命力がすごい。

 その美しい人は、ドアを開けたを氷のような視線で私を射抜いて言った。

「あなた、誰」