「ちょ、あの、ヒメムラサキ……?」

『ちょっとさ、お昼寝してから帰ろうよ』

「ええー、いやでも」

『最近、レポートとかバイトとかで寝不足が続いていたのを、ヒメは知っています!』

 ぴこ、という音とともに空中にモニターが出現する。ヒメムラサキが起動したものだ。

 そこには、私の睡眠時間や活動時間がグラフ化して提示されていた。

「こんなことできるの!?」

『ヒメ、携帯会社のクラウドに接続できるからね』

「わお、ハイテク」

『今さら気づいた~?』

「恥ずかしながら」

『ふふん、もっとヒメを頼ってもいいんだよ!』

 えへん、とヒメムラサキは得意げな顔をした。

 霊気だか妖気だか、電子だか量子だか。よくわからないけれど、

 そういう名前のエネルギー体で構成されているヒメムラサキの体は不思議に温かくて、花のような匂いがする気がする。

 生活感のない、神崎奇跡がかつて住んでいたという部屋のなか、たしかに温かいのはヒメムラサキの体だけで、私はそれにすがるように抱きしめる。


「ねえ、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

「お姉ちゃんも、ヒメムラサキに頼ってたの?」

『……うん、すごくね』

「そう」

 柔らかな黒髪に鼻先をうずめる。

「じゃあ、私も一つ頼っていい?」

『もちろん。帰りの電車調べますか? それとも、大学のシステムをハックしてオールAでも取得しちゃう?』

「鍵、しめてきて」

『……はい?』

 安心して昼寝をするために、玄関の鍵を閉めてもらった。ついでにチェーンも。

 ベッドに戻ってきたヒメムラサキを抱きしめて、私は瞼をおろす。睡魔はほどなく訪れた。

『もう、T.S.U.K.U.M.O.使いが荒いんだから』

 遠のいていく意識のなかで、小さく、ヒメムラサキがぼやくのが聞こえた。
 その声色がおかしくて、ふふ、と思わず笑いが漏れる。

 使いっぱしり、おつ。