それは何度も繰り返された光景だ。
神崎奇跡を、実の娘を崇拝する親。
私は、奇跡の陰で――上等な人間どころか、この人の娘にすらなれなかったような気がする。
「ねえ、はるか。あなたT.S.U.K.U.M.O.なんて持っていても仕方ないでしょう? 大学生でそんなもの持っている人、他にいる?」
母は言う。
「この子、うちに頂戴な。奇跡ちゃんの遺言だから、いったんあなたの手に渡ったわけだけど、この子にとってもそれがいいわよ」
「それは……たしかに、平日はほとんど私は一人で外出してるけど」
「ほらね! そんなの、奇跡ちゃんが可哀そう!」
勝ち誇ったように、母は言う。
「あのね、奇跡ちゃんの部屋はあの子が出て行ったときからそのままとってあるのよ。だから、あなたもそこに住めばいいわ。お母さんね、奇跡ちゃんのことならなんでも分かってるの。ねえ、そうしましょう!」
そうして母は、ヒメムラサキの手を掴む。
そのとき。
『ヒメに触らないで』
聞いたこともないような、冷たい声が響く。