「ちょっと、はるか?」

 背後から声がかかって、物思いの沼から引き上げられた。

「なに、お母さん」

「……奇跡ちゃんから相続したT.S.U.K.U.M.O.、お母さんにも会わせてちょうだいよ」

「どうして」

「どうしてもうこうしても、奇跡ちゃんが遺したものはお母さん全部、全部見ておきたいと思っているの」

「あ、そう」

 どこまでも劇場型の悲劇に酔っている母親に、心底げんなりとした気持ちが湧き上がってくる。

 神崎奇跡は、死んだのだ。

 みんながまるで神様みたいだと崇めた彼女は、本当に誰も手が届かないところに行ってしまった。



「……仮想神格システムT.S.U.K.U.M.O.、顕現プログラムを起動。個体名【ヒメムラサキ】」


 気乗りがしないままに、そっけなくシステマティックな祝詞を唱える。

 携帯端末から粒子があふれ、瞬きした次の瞬間には――そっけない部屋に黒髪おかっぱの少女が立っていた。白いワンピースが眩しい。



『顕現、確認。仮想神格システムT.S.U.K.U.M.O.、個体名は【ヒメムラサキ】』


 その姿を見て。

「な、は……っ!」

 顕現したヒメムラサキを見た母は、かくりと膝をついた。