妙に片付いた部屋を嘆く母親に、

「お姉ちゃんが死んだの、旅行先でのことだったし。旅行前に冷蔵庫の中を整理したんじゃないかな」

「そうね‥‥…でも、どうしてあんなことに」

 わあ、と泣き出す母。

 悲劇のヒロインも顔負けの泣きっぷりである。

 遺品整理のために呼ばれたはずが、見れば部屋の片付けもほとんど進んでいないようだった。

 一週間後には鍵の引き渡しをするということだから、結構危機的状況だ。

 両親は、奇跡の部屋に業者を入れるのを嫌がっているようだ。

「お母さん、落ち着いてってば」

「しかも、遺書なんて用意して……奇跡ちゃんが死んだのは本当に事故だったの?」

 うずくまる母が吐いたのは、この三ヶ月で何度も聞いた疑問形だった。

 まだ二十六歳の奇跡が、残していたという遺書。

 しかも中身は、『妹のはるかに、T.S.U.K.U.M.O.を相続する』というだけの内容。

 確かに不可解で、解せなかった。

 それでも、遠い海岸で転落死した奇跡の検死と現場検証にあたった地元警察が出した結論は『旅行中での不慮の事故』ということだった。

 事件性なし。

 そうなってしまえば、私たちにできることなどはほとんどない。

 そもそも、手荷物ごと崖下に落ちてしまったという状況から物取りの犯行はありえないし、恨みで殺されたと仮定してみても神崎奇跡という人間を憎む人間なんてそうそういないのだ。

 それこそ、両親の愛情も周囲からの注目も、幼い頃から奪われ続けていた私以外は。

 もちろん私は、殺っていない。