ちょうど帰宅したタイミングで、私のスマホが鳴った。

 ヒメムラサキごと相続した姉の遺品ではない、私のスマホ。

 T.S.U.K.U.M.O.なんていう高級なアシスタントシステムを入れていない、ただのスマートフォンから、そっけない着信音が鳴り響く。

『ふんふーん、ふんふふふん♪』

 と、調子はずれの鼻歌とともに独り暮らし用の小さな冷蔵庫に食材を詰め込んでいるヒメムラサキの横を通って、キッチンから通じるベランダに出た。

「もしもし」

 電話が携帯式になろうがスマートになろうが変わらぬ、昔ながらの「もしもし」から始まる電話。

「ええ、はい。はるかです。ご無沙汰しています。はい、はい……えっ?」

 電話の向こうの人物の言葉に、私は耳を疑った。

 神崎奇跡の死から、三カ月。

 T.S.U.K.U.M.O.の相続。

 新学期。

 そういったことが、やっと落ち着いたと思ったのに。

「遺品整理、ですか?」

 電話の向こうから聞こえた言葉を、思わずオウム返しにした。

 ベランダの向こうは夕焼け。

 山之上神社の鳥居の色と同じ、目の覚めるような朱色をしていた。