「うはー。買った買った!」
両手いっぱいのビニール袋の重みに声を上げる。
『よいしょ、よいしょっ!』
「その掛け声、本当に口に出している人初めて見たわ」
『ヒメは、人じゃなくてT.S.U.K.U.M.O.だよ』
携帯の画面を飛び出して再び顕現したヒメムラサキの両手にも、いくつもビニール袋がぶら下がっている。
ヒメムラサキは、バーチャルアシスタントであると同時に人工的に造られた付喪神である。
であるからして、こうして顕現している間はちゃんと物体にも干渉できるというわけだ。
つくづく、不思議なプログラムだ。
動くと汗ばむ、春の陽気。
とぼとぼと家路を急いでいると、視界の端にあるものが目についた。
ああ、あれは。
「ねえ、ヒメムラサキ」
『なあに、はるちゃん』
「冷凍食品って買ったっけ?」
『買ってない。冷凍庫パンパンだし』
「アイスは?」
『結局は買ってないよ、冷凍庫パンパンなんだもん』
「じゃあさ、ちょっとだけ寄り道していかない?」
見上げた先。
長い長い石階段を上がったところに立つ、小さな、赤い鳥居。
私は、それに釘付けになっていた。
『寄り道?』
「うん。ちょっと、懐かしい場所だよ」
『あ、ちょっと待ってよ。はるちゃん~!』
ヒメムラサキの声を背中に浴びて、石階段を上がる。
五月の日差しが、柔らかい。