「じゃ、ツクモちゃんとお幸せにね」

 つゆを飲み干して、美鈴は風のように食堂から飛び出していった。

 私は、手を振って見送った。

***

 そのツクモちゃんと相性抜群なんじゃない?
 ――美鈴の言葉を思い出しながら帰宅して、アパートのドアノブを回す。

『おかえりんこ!』

「ただいまん、ん、ん? ……ただいま」

 帰宅早々、大変な罠を仕掛けられた。

 油断も隙もない。このヒメムラサキというのは、こういう付喪神なのだ。

 明るくて。

 洒落っけのある。

 どこかつかみどころがない。誰かさんに似ている。
 まるで神様みたいと評判だった、誰かさんに。

「……ほんと、ムカつく」

 思わず、言葉がこぼれた。

『むむ? そんなところでブスくれてないで、はやくご飯にしよう、はるちゃん』

 言われて鼻をひくつかせる。
 あたためられたお味噌汁の匂いが漂ってきた。
 おいしそうでしょ、と笑うヒメムラサキ。

 まるで私の言葉なんてなかったかのような笑顔。

 そんなところも、腹がたつのだ。

 なぜって、その超然とした感じがあまりにも……。
 神崎奇跡に、似ているから。