不気味の谷。

 アンドロイドやT.S.U.K.U.M.O.の挙動を人工物を人間に近づければ近づけるほど、それを見た人間が不気味さ気味の悪さを感じるという現象だ。

「いやあ、それがさ」

 今朝、私をヒメムラサキを思い出す。

『起きろ~~!』
『いぇ~~い!!』
『さすがヒメっ☆』

 ……その言動は、不気味の谷どころかハイテンションの山だ。

 あまりにも人間くさいので、たまに彼女が付喪神であることも忘れてしまう。くるくると回るその表情を思って、思わず「ふふっ」と笑いが漏れた。

「あっ」

 美鈴が、ぴしっと指をさしてくる。

「笑った。やっぱり、いいことあったんだ」

「え?」

「そのつくも、もしかしてすごく相性がいいんじゃない? 相性抜群なんじゃない!?」

「そ、そうかな」

「そうだよ、なんかめっちゃ肌ツヤいいし」

 肌ツヤ。
 たしかに、ヒメムラサキが来てからは野菜を食べている。
 というか、食べさせられている。

 おかげでちょっと体調もいいし、肌の調子もいい気がする。

「うん、やっぱり綺麗になってるって!」

 きつねうどんを汁まで飲み干しつつ、美鈴は言った。

「美鈴ちゃん、塩分取りすぎ。そりゃあ肌に悪いよ……」

「何言ってるの、つゆこそきつねうどんの白眉だよ!」

 曰く、油揚げの甘辛いつゆをたっぷりと溶かしたつゆこそが、きつねうどんを食べるうえでの最高の楽しみなのだという。

 あぶらあげもうどんも、所詮はその前座に過ぎないのだと。

「私ほど学食のきつねうどんに精通している女子大生、いないからね!」

 美鈴に力説されてしまえば、

「な、なるほど」

 ……というほかはない。

 さっぱり共感は、できないけれど。