「隣、いい?」

「うん」

 ホカホカと湯気をあげるきつねうどんをトレイに乗せて、美鈴は私の隣に座る。

 美鈴からは、なんとなくハワイっぽい香りが立ち上っていた。
 コロン。甘い匂いだ。

「はるかは相変わらずの生姜焼きだねえ」

「そっちも、いつものきつねうどん」

 おたがい、食堂でお気に入りのメニューを連打するタイプだった。

 別名、いちいち注文を考えるのが面倒くさいタイプともいう。

 しばし無言で昼食をもぐもぐする。食べてるときに話しかけてこない、というのも貴重なタイプの友人だ。

 地味な私と、派手な美鈴。

 外面は違えど、けっこう似ているところがあるんだと思う。

 私は、お茶をこくんと飲み込んで近況を切り出す。

「やっと、色々落ち着いてきたところ」

「へえ?」

「ほら、姉さんの」

「ああ……」

 美鈴は姉が死んだ、ということを知らせた数少ない友人だ。

 彼女自身は神崎奇跡に会ったことがないため、抵抗なく伝えることができたのだと思う。

 一度でも奇跡に出会った人間は、彼女のことを嫌に崇拝するのだ。
 崇拝する対象の死、なんて。
 おいそれと伝えられない。伝えたくない。

 姉さんは、ただの人間なのに。

「残念だったね。おいくつくらいだったんだっけ?」

「二十六。四つ年上」

「そっか。はるちゃんは大丈夫?」

「うん、お母さんたちの方が大変そう。変わったことといえば、姉さんから遺産というか、遺品を相続したことくらいだよ」

 相続、という単語に美鈴が「へぇ」と声をあげた。

 二十六歳という享年と遺産・遺品という単語に釣り合いがとれなかったようだった。

 実際、奇跡はけっこう稼いでいたほうだけれど遺産と呼べるものは少なかったそうだ。

「T.S.U.K.U.M.O.システムなんだよね」

「え?」

「相続したの、T.S.U.K.U.M.O.なんだ」

「えっ、T.S.U.K.U.M.O.って……お姉さん、事業とかやられてたの?」

 美鈴の反応はごく当然だ。

 T.S.U.K.U.M.O.システムは、個人が所有するには高級品だ。

 高所得層が道楽で所持しているほかには、企業での運用や軍事での運用がメインである。

「個人所有。私も知らなかったんだよね」

「へえ。でも、T.S.U.K.U.M.O.ってやっぱり、不気味の谷っていうのかな。人間っぽいのに、感情表現とかさ、表情がのっぺりしてて……張り付いたような笑顔だったり、無表情だったり、ちょっといきなり相続するのは驚くんじゃない?」

 なるほど、不気味の谷ときたか。