「……え」

 打ち付けられる波の音が聞こえる。

 はっ、と気が付くと私は東尋坊に立ち尽くしていた。

 周囲の観光客がちらちらと心配そうにこちらを見ている。

 どれくらい、こうしていたんだろう。

 私は呆然としながら、顔を上げる。

 そうして、飛び込んできた光景に。

「…………すごい」

 思わず、声を上げた。



 それは、海に沈んでいく太陽。

 燃えるような、空だった。

 海の向こうに落ちていく夕日に照らされて。

 空も。
 海も。
 私も。
 何もかもが、真っ赤に燃えていた。


 夕日を、茫然と眺める。

 周囲の観光客はしきりに夕日の写真を撮影している。

 そうか、彼らはこれを見に来ていたんだ。



 端末に向かって話しかける。

 ヒメムラサキの名を何度読んでも、端末の中からあの鈴の転がるような元気な声が聞こえることはなかった。


 空を仰ぐと、中天はすでに紫色に色づいていた。



 ――勿忘草の、色だ。




 日本で一番きれいな、燃えるような夕焼け空。

 それを眺めながら。

 それでも私は、山之上神社から眺める夕日が、懐かしかった。