どうにか起き出したのは、ヒメムラサキ襲来から十分後のことだった。

 我ながら、よく粘ったと思う。

「うう、おはよう」

『全然、オハヨウじゃないよ。オソヨウだよ!』

 プリプリと頬を膨らませながらヒメムラサキは手にしたおたまを私に向けた。

 白いワンピースのうえから、厚手の黒いエプロンをつけている。
 実に実用的なエプロンには、フリルもボタンもなし。
 シンプル イズ ベスト。

 ワンルームアパートの小さな台所では、ヒメムラサキの作った大根の味噌汁が良い匂いを漂わせていた。炊飯器の中ではごはんも炊けているようだ。

「うう。悪かったって。でもヒメムラサキ、もしかして姉さんのこともこうやって起こしてたの?」

『奇跡は寝るって決めたらヒメが殴っても蹴っても起きなかったよ。お仕事のときはちゃんと起きてたけど』

「あ、そう」

 ああ、そうだった。神崎奇跡はそういう女だった。
 完璧、完全、生き神様。
 それが彼女に一度でも接したことのある人間が下す評価だ。

 少なくとも、毎日一限の授業に寝坊していく私とは違う。