遠い日。

 山之上神社。

 いつも、夕焼けばかりを眺めていた。

 だけれどあの日、一度だけ。

 夜の神社に足を踏み入れたことがある。見慣れたはずの狛犬がひどく不気味で、怖かった。

 どうして、夜に山之上神社に行ったんだっけ。

 思い出せ。ああ、そうだ。


 あれは奇跡を探しに行ったんだ。

 私はまだ小学生。


 家に帰ると、いつもの帰宅時間になっても奇跡がいないと母親が騒ぎ立てていた。

 もう奇跡は中学生だったし、夕方になればそのうち帰ってくるだろうにと思っていた。

 けれど、暗くなっても奇跡は帰ってこない。

 半狂乱になって奇跡を探し回る母親の背中を見ながら、私は確信していた。


 奇跡は山之上神社に居ると。



 それを伝えようと、何度声をかけても奇跡奇跡と言うばかりで母は私の声には気づかない。


 ああ、奇跡は特別で私はそのおまけなのだと改めて思い知った。


 それで私は奇跡を探して、山之上神社に独り向かったのだ。


 暗い境内、いつもの場所。






 そこに奇跡は座っていた。