静かな返答。

「ヒメムラサキは、そのほかにも顕現体の姿を持ってるんだよね」

『ヒメは、奇跡が望んだ姿になっているだけだよ』

「奇跡が、望んだ? 前には、違う姿かたちだったんでしょ。その、」

 私の少女時代に、そっくりの姿。

『うん。奇跡はね、ヒメにそうあってほしいと望んだんだ。奇跡は、ずっとずっと、はるちゃんと居たかったのかもしれないね』

「嘘っ!」

 思わず、声が大きくなった。

 嘘だ、嘘。

 私にとってたった一人のお姉ちゃんだった神崎奇跡は、私を捨てて家を出た。圧倒的なカリスマでもって両親の愛情を独り占めして、家の中から、私の居場所を奪ったままで。



「嘘、嘘だよ。だって。だったら……なんで奇跡は家を出たの」

 私は、私は神崎奇跡が大嫌い。

 凡人の私には、全然理解できない行動を平気でとるから。

 奇跡の気持ちがわからない。

 奇跡の行動がわからない。

 死んでしまってなお、彼女の気持ちを想像すればするほど遠くなる。

『……はるちゃん、泣いているの』

「え?」

 気づけば私は涙を流していた。

 どうして泣いているのか、理解が出来なかった。

 自分の気持ちの在り処さえ、もうまともに分からなかった。


 ただ、涙が流れて止まらなかった。

 私は、神崎奇跡のことが大嫌いなはずなのに。