神崎奇跡は、絶対に自殺ではなかった。

 なぜって、あの神崎奇跡が才谷と同じような行動をとるわけがないのだ。

 彼女は、はた目から見ても天に愛されていた特別な人間だった。

 そんな彼女が、才谷みたいに、あるいは私みたいにつまらない凡百な発想をするわけがないのだ。

 絶対に。

 神崎奇跡が恋人もどきの女性たちに聞かれた寝言。

 それが。彼女が呼んでいたのが、私の、神崎はるかの名前だった。

 そのことが、胸のなかをグルグルグルグル駆け巡る。

「ね、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

「奇跡は、私のことが好きだったのかな」

『……そうだね。きっと」



 ヒメムラサキは、すうぅと大きく息を吸う。

 まるで、人間みたいに。




『きっと、奇跡ははるちゃんのことを愛していたよ』