ふと、私は訊ねる。

「ねえ、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

「東尋坊の由来って何?」

 ヒメムラサキはクラウド検索からそれを教えてくれた。

 平泉寺にいた東尋坊という荒くれ者の僧侶が、ひとめぼれした姫君をめぐって真柄覚念という恋敵によって眠っている間にこの絶壁から突き落とされたのだという。

 怪力を誇った東尋坊が恋の前に散った崖。それがこの東尋坊なのだそうだ。

 海は東尋坊の死後四十九日の間、大荒れだったらしい。

 死んだあとに波風をたてる人間は、昔からいたということだなと思った。

 東尋坊の逸話に自分の恋心を重ねる才谷のメンタリティってどうなんだろうな、と思ったけれどよく考えたら全然状況が違うよな。



 姫君である神崎奇跡だって、とっくに死んでしまっているのだから。