「……そうなんですね」

「彼女のことを、自分の恋人だと思ってる人間は他にもたくさんいたよ。ゴールデン街にはそれこそ数えきれない人たちが自分こそ恋人だと信じてたし、奇跡さんの家の近くの図書館司書や奇跡さんのかかりつけの病院の看護師も、自分こそが神崎奇跡の特別だと信じていたよ。実際には、歯牙にもかけてもらえなかったどころか……ただの穴埋めだったのにね」

「……それは、どういう」

「恋人を名乗ったのはみんなね、女の人だった。みんな、奇跡さんのことが大好きだった。それからね、何人かは奇跡さんが寝言である人を呼んでいるのを聞いたんだって……奇跡さんは、私たちをついでみたいに愛しながら、たった一人に奇跡さんの恋を伝えられなかったんだよ。奇跡さんは、寝言で何度も呼んでいたんだって――」

 そこまでまくし立てて、才谷は言葉を切る。

 そして、内臓を吐き出すみたいにこう言った。

「――はるちゃん、って女の子を」

「えっ」