才谷はおどけたように肩をすくめて、深くソファの背もたれにもたれて語り始める。

「……私から話したいことは二つ。一つは、私が抱いてる疑念っていうか、不審点? って感じのこと」

「才谷さんのが不振ですよ。ヒメムラサキも才谷さんのことを知らないようだし」

「うん。その、ヒメムラサキのことなんだけれどもね」

 才谷はぽそぽそと喋る。

「あの見た目は、なに?」

「え?」

 告げられたのは意外な言葉だった。

 見た目。

 ヒメムラサキの見た目がどうしたというのだ。

「実のところ、私は奇跡さんのT.S.U.K.U.M.O.に会ったことがあるんだよ。家に行ってたんだから当然でしょ」

「でも、前に会ったときは初めてヒメムラサキを見たみたいな反応をしていましたよね」

「見た目が、違ったんだよ。奇跡さんが持っていたT.S.U.K.U.M.O.は」

「……どういう見た目だったっていうんです」

「顔立ちは今と大きくは変わらないけど、もっと髪が薄い茶色で……もう少しだけ地味な表情で、もっと、こう、普通って感じだった。今のあれは、まるで……」

「今のヒメムラサキは、神崎奇跡の少女時代によく似ています」

 努めて冷静に事実だけを告げる。

「やっぱり。昔から、綺麗な人だったんだね」

「そうやって特別扱いをされるの、姉は嫌がっていましたけどね」

 つい、棘のある言い方をしてしまう。

「……前の、ヒメムラサキの見た目というのは」

 スマホを操作。

 カメラロールに一枚だけあったはずだ。

 実家に行ったときに、戯れにアルバムを写した写真。

「もしかしてですけれど、こういう姿でしたか」