私は迷った。
ヒメムラサキを外させる意味はなんだろう。
神崎奇跡の情報を、ヒメムラサキに聞かせたくないということか?
ふと、昨日の「ヒント」を思い出す。ヒメムラサキの、あの、奇妙なヒントは何だったのだろう。小さなトゲのように胸につかえている違和感。
「……十五分」
決断、した。
「お話しするのは、十五分。ヒメムラサキはその間だけ、スリープモードにします。あと、この建物からは一歩も出ません。そこのソファに座って、十五分。それでよければお話ししましょう」
「おっけ」
『……ひめちゃん。またあとでね。T.S.U.K.U.M.O.システム、個体名ヒメムラサキ。十五分間のスリープモードを設定』
ふ、と。
ヒメムラサキの顕現体が消失する。
周囲にいた観光客が一瞬ぎょっとするが、ほどなく個人用T.S.U.K.U.M.O.であると納得したようだった。
「今どきの子はお金持ちねぇ」
なんていう言葉が聞こえる。
その人たちにいちいち説明する気も起きないけれど、驚くのも無理はない。
T.S.U.K.U.M.O.システムは高級品。奇跡はどうしてそんなものを購入したのか。
「信用ないね。この建物から出ないって……東尋坊から突き落とされるとでも思った?」
『あまり余計なことをしゃべっている時間はないと思います。もうあと十四分くらいですよ』
精一杯、冷静にそう告げる。背筋がぴんと伸びる。