東尋坊タワーという展望台に入る前に、自動販売機でジュースを買った。

 おごるよ、という才谷の申し出は丁重に断った。

 話す、なんて言われてもこちらから提供したい話題などなくて黙り込んでしまう。

 展望台から遠い水平線を眺めながら、才谷が沈黙を破った。

「この間は取り乱してごめん」

「いえ、別に……」

「あの後、私なりに奇跡さんのことについて色々調べたんだ。ゴールデン街のつてを辿ったりして。ああいう目立つ人だから、断片的にだけど情報はあった」

 淡々と語る才谷。彼女が集めた神崎奇跡の断片は、聞きたいような聞きたくないような気がする。

「喋っても、いいかな」

「……お好きにどうぞ」

「そうしたら、その前に」

 言って、ヒメムラサキを見る才谷。

「その子、ちょっと席を外させてほしい」

「ヒメムラサキをですか?」

 才谷はゆっくりとうなずいた。

「ヒメムラサキ、どう?」

『……はるちゃんが決めていいよ』

 普段の主張の激しい性格が嘘のように、どうしてだかヒメムラサキは静かにぽつりとつぶやいた。

 俯いている表情はおかっぱ髪に隠れて、よくわからない。