東尋坊。
福井県坂井市にある崖で、越前加賀海岸国定公園の特別保護区である。
輝石安山岩でできた二十五メートルを超える垂直の岩は、世界でも大変珍しく貴重。国の天然記念物に指定されている。
恐竜博物館といい、すごいな、福井。
『……っていう感じだよ』
「検索ありがと、ヒメムラサキ」
クラウドに接続して、次々と豆知識を披露するヒメムラサキはこの旅行で名ガイドの称号を得てもいいほどの働きをしている。
大手旅行代理店が企画する海外ツアーでは、通訳兼ガイド兼セキュリティ要員としてT.S.U.K.U.M.O.の顕現体が採用されていると聞いたことがあるけれど、なるほどこれは便利だ。
自殺の名所、心霊スポット、神崎奇跡の最期の地……そんな場所は案外、穏やかで清々しい場所だった。海風が吹き抜ける。
「ここが、東尋坊」
『記録によると、奇跡は午後三時から崖下に落ちてしまった五時前後まで、ずっとこのあたりをウロウロしていたみたい』
「そんなに長い時間?」
『うん、まだまだ居座るつもりだったのかな』
「ふぅん、恐竜博物館みたいに見るものもないのに」
そんなに長い時間。まるで、なにかを待っているみたいだな、と直感的に思った。
でもこんな海辺の崖でなにを待っていたんだろう。
そんなことを考えながら、ふらふらと歩く。
絶景スポットであり、様々ないわくによって有名な東尋坊は観光客でにぎわっている。その中に一人、よく目立つ女性がいた。