それでも、自分で自分の未来を選ぼうという活動にエネルギーを割けるのは、本当に立派なことだと思う。

 神崎奇跡の妹である、という自分では選べない不幸を受け入れて生きてきた。

 ことあるごとに、神崎奇跡の特別さと自分の平凡さを突きつけられてきた。

 私はたぶん、何かを選ぶことにひどく臆病になってしまっている。

「神崎奇跡はね、全部選べる人間だった」

『……』

「自分のふるまいも、自分が何を食べるのかも、ランドセルも、いきなり家を出ることも……なんだって選べる人だった。お姉ちゃんだったら、毎日生姜焼き定食を食べるようなことはしないんだと思うけど、私にはそういう単調な毎日がちょうどいいんだよ」

『……選んでいるように見えて、選ばされてたのかもしれないよ』

「え?」

『なんでもない』

 はやくいこ、と立ち上がるヒメムラサキの背中を追いかける。



 午後に向かうのは――東尋坊。

 奇跡が落ちた崖。

 神崎奇跡の短い旅路の終わりだ。