ふと、思う。

 大学食堂で、あれだけ毎日食べていた生姜焼き定食を恋しく思わないのは、我ながら薄情なのかもしれないなと思う。

『生姜焼き?』

「うん、大学の学食でね。毎日お昼ご飯は豚の生姜焼き定食を食べてたやつ」

『ふぅん……ヒメの方がおいしく作れるのに』

 キンと冷たい越前そばをすする私をじっと見つめて、ヒメムラサキはいつもみたいに頬を膨らませた。

「別に、生姜焼きが好きなわけじゃないよ」

『でも、毎日食べてたんでしょう?』

「うーん、しいて言うなら単純に選ぶのが面倒なだけだと思う。メニューひとつだって、選ぶことは疲れるから」

『選ぶのが楽しいんじゃないの? ヒメ、そういうの聞いたことあるよ』

「んー。必ずしもそういうわけじゃないと思うよ。私みたいに、平凡でつまらない人間ってさ、自分の責任で何か選ぶって苦手なんだよね」

『そんな大げさな話なの?』

「大げさかな。私の友達も同じこと言ってた」

『へっ? はるちゃん友達いるの?』

「驚くところそこじゃないでしょ、っていうか話の腰を折らないでよっ」

『メンゴメンゴ』

「で、私の友達でも毎日きつねうどん食べている子もいるしさ、そういうもんなんだよ」

『ふぅん』

 そっけないヒメムラサキの返答に苦笑する。

 そういえば、美鈴はどうしているだろうか。就活、大変だろうな。

 ブラックスーツで身を固める美鈴は、ちょっと笑える。