ひとしきり、ヒメムラサキをくすぐった。

 悶えながらきゃあきゃあ笑い転げるヒメムラサキに、周囲の部屋の迷惑になりそうだと手を離す。

 ふう、と大きく息をつく。

「ふはぁ~……」

『くっ殺……っ!』

 シーツにくるまってフルフルと震えているヒメムラサキに、私は心の底から満足して大きくため息をついたのである。



 お互いの呼吸が落ち着く。
 
オレンジ色の常夜灯が照らす部屋でけだるい沈黙をゆっくりと味わいながら、ヒメムラサキに言う。

「ねえ、ヒメムラサキ」

『なあに、はるちゃん』

「お姉ちゃんの、三つ目の大契約ってなんだったの」

『だーかーらー、内緒だよ』

「だよねぇ。んんん、でも余計に気になるなぁ」

 寝る前の軽口、のつもりだった。

 だって、そんな気になる謎を残されて眠るなんて、睡眠妨害だ。

 いいところまで聞かせておいて、今宵はここまで――なんて。

 アラビアンナイトそのものだ。

 そんな他愛のないことをしゃべりながら、眠りにつこうと思っていた。

 それなのに。

『じゃあさ、ヒント。出してあげるよ』

「……え?」

 低く、ヒメムラサキが唸るように言ったかと思えば。

 視界が暗くなっていた。

 え、なに。いったい何なの。

 そう思ったと同時に、呼吸を奪われる。

「んむっ? んん、ちょ……な。」




 キス、を。




 されて、いる。




 ヒメムラサキが獰猛ともいえる動きでもって、私の唇を奪っているのだ。

 あまりの事態に細い少女の体を押しのけることも忘れていると、パジャマの中にヒメムラサキの手がするりと潜り込んできた。

 ホテルに備え付けだっただぼだぼのパジャマは、細い手の侵入をいとも簡単に許してしまう。

 お腹の薄い皮膚を、肋骨のあたりの敏感な凹凸を、ヒメムラサキの手が這いまわる。

「っ、ぁ」

 そんなふうに他人に触られたことは、今までの人生で一度もない。

 ぁ、あ、と漏れてしまう声が恥ずかしくて、それなのにヒメムラサキに触れられることは全然嫌じゃなくて。

『……っ、はるちゃん。はるちゃん』

 泣きそうな声で私を呼ぶヒメムラサキを抱きしめる。

 なぜだか、泣きそうになっているのはヒメムラサキではなくて――神崎奇跡のような気がした。もう死んでるのに。

 首筋を舐めあげられて、まだ「ぅん、っ」と甘えた声が出た。


 お腹が、気持ちがいい。







 ――そこから先は、なんだかよく覚えていない。