ヒメムラサキは、ゆっくりと目を閉じる。

 長く、カールしたまつ毛が震える。

 この顕現体がニセモノだなんて思えない、精巧で温かい肉体だ。

『全部で四つの大契約をヒメは奇跡と交わしたの。ひとつ、神崎奇跡を特別視しないこと。ひとつ、神崎奇跡はヒメムラサキをニンゲンとして扱うこと。……ひとつ、三つ目の大契約は他言しないこと』

「他言しない」

『そう。三つ目の契約が、奇跡が一番成したいことだったんだけど。それを、ヒメは他言できないの。それがたとえ、奇跡の死後であっても、相手がはるちゃんだったとしても』

「ふうん」

『でもね、たぶん三つ目の大契約をヒメは絶対に遂行したいと思うの。その日が来ることを、ずっと待ってる。そのために、ヒメはこの見た目で顕現して、ヒメムラサキという名前をもらったんだから』

「見た目に、名前ね……全部、奇跡からもらったんだね」

 ――私は、中古品が嫌いだ。

 だって、どんなに近づいても情をかけても芯から自分のものにはなってくれないから。

「ヒメムラサキに、ひとつ教えてあげる」

『なあに?』

「秘密って言われると! 余計知りたくなるんだよっ」

『うわぁっ』

「くすぐってやる!」

『きゃぁあっ』

 胸の中に渦巻く、もやもや、ひらひらした気持ちの行き場がなくて、ヒメムラサキを思い切りくすぐるにした。

 自分より一回り小さい体が、くすぐったさに激しくくねっている様子は私をなんだか良くない気持ちにさせる。