私からしてみれば、奇跡だって普通の女の子だったのに。

 神様なんかじゃなかったのに。

『ヒメからしたら、はるちゃんだって特別だよ』

「うそ。こんなに凡庸な人間もいないよ」

『そんなことない。だって、はるちゃんは……奇跡を特別扱いしなかったんでしょう?』

「え?」

『……あのね。契約者は、T.S.U.K.U.M.O.が最初に起動したときだけね。大契約っていうのをすることができるんだ』

「大、契約」

『うん。色々な設定を超えて、絶対に破ってはならない禁忌であったりとか、そのT.S.U.K.U.M.O.の行動原則みたいなものだね。例えば、企業用のT.S.U.K.U.M.O.だったら就業規則とか、あとはお客様に絶対しちゃいけない対応とかを大契約にする』

「ふうん。あ、ロボット三原則みたいなもの?」

『ロボット三原則……検索しています……ふむ。人間への安全性、命令への服従、自己防衛かあ。うんまあ、そういうのも含まれるね。はるちゃん、よく知ってるね』

「好きなんだ、SF」

 アイザック・アシモフという小説家が考えた、ロボット三原則。

 人間を傷つけない。

 人間の命令には服従する。

 自分の身体を防衛する。

『SF好き? 初めて知ったよ』

「初めて言ったから」

 むふー、とヒメムラサキが口をとがらせる。

「今度、一緒に映画観ようよ。『オデッセイ』とか」

『それで、大契約の話に戻すけど、個体名もそのときに付けるんだよ。一番最初で、一番大事な契約』

「……お姉ちゃんは、どんな大契約をしたの?」

 これはたぶん、核心に迫る質問。