『ヒメが目覚めたのは、四年前のことなんだけどね。初めて起動したとき、ヒメには全部が流れ込んできたの。自分がT.S.U.K.U.M.O.という存在であること、T.S.U.K.U.M.O.とは何か、感情の起伏が意図的に抑制された初期設定であること、クラウドへの接続の仕方……全部が、一気に理解できた』

「へえ、想像できないな」

『初期設定、ってやつだね。とにかく、T.S.U.K.U.M.O.として必要な知識は最初からヒメのなかにあった。そうして目を開けたらね、そこにいたんだ。奇跡が』

 ヒメムラサキはシーツの皺を指先で弄っている。

 テクノロジーと呪術のはざまの存在である彼女の自我、というのは結構興味深いトークテーマだと思ったけれど、それはこの話の前奏に過ぎないようだ。

『ヒメはね、奇跡を見たとき思ったの。ものすごく、綺麗な人だなって。これって、すごいことなんだよ』

「ふうん? 奇跡を見て綺麗だって思うのは普通のことじゃない?」

『人間ならそうかもね。でも、T.S.U.K.U.M.O.はね、基本的には何かに感動することがないようにプログラムされているんだよ。だけど、私は奇跡のことを綺麗だって思ったの。それって感動ってことなんだよ』

「……さすが。お姉ちゃんは特別だもん」

 それで、私は平凡。

 全部、当たり前の話だ。