私の髪を丁寧に梳きながらヒメムラサキは言った。

『ねえ、はるちゃん。今夜はヒメの話、聞いてもらってもいい?』

「ん、お姉ちゃんの話?」

『そう。昨日ははるちゃんの話を聞かせてもらったでしょ。だから今日は、ヒメのターン』

 神崎奇跡が、家を出てからパートナーとしていたT.S.U.K.U.M.O.。

 私が知らない、神崎奇跡の話。

 新宿ゴールデン街のバーで水曜日のママをしていた奇跡の姿を、私は知らなくてヒメムラサキは知っている。

『ヒメが、奇跡に出会ってヒメになった日の話を聞いて欲しいんだ』

 髪が乾く。

 テレビから交通事故で名前も知らない誰かが亡くなったというニュースが流れる。

『ヒメは、売れ残りだったの』

 ひとつの布団に潜り込んで、まだひんやりとしているシーツのなかでヒメムラサキは言った。

「売れ残り」

『そう。会社の偉い人は個人用の携帯端末にT.S.U.K.U.M.O.を憑依させてブームを作るつもりだったみたいなんだけど、高すぎるし、お客さんは実際はそこまで高度なアシスタントを求めているわけじゃなかたし、しかも世界展開はできない日本の呪術がベースになってるシステムでしょう。発売したはいいものの、全然売れなかったんだって』

「へぇ……、こんなにすごい技術なのに」

『えっへん!』

「いや、ヒメムラサキ個人を褒めたわけじゃないんだけどっ」

『ま、ヒメはT.S.U.K.U.M.O.のなかでも特別だからね』

 むふむふ、とご満悦のヒメムラサキは『そういえば、』と言葉をつづけた。

『T.S.U.K.U.M.O.システムを作った人の話は知ってる?』

「開発秘話ってこと?」

『そんな大層なことじゃないんだけどさ。T.S.U.K.U.M.O.の原型を作ったのは、大正時代の十五歳の女の子なんだよ」

「十五歳? 子どもじゃん!」

『当時だと大人に片足突っ込んでたかもね。高名な陰陽道の家元に生まれたすごく優秀な女の子の日記に書かれてる術式が、呪術システムの根幹になってるんだ。よっぽど付喪神にしたい思い出の品があったみたいなんだよね』

 初めて知った。

 お店の受付なんかでT.S.U.K.U.M.O.の顕現体を目にすることはたびたびあるけれど、誰が作ったのかなんて気にしたこともなかった。

「十五歳の女の子が……」

 なんだか不思議だ。

 科学テクノロジーと呪術の融合……そんな、まだ世界が追いついてもいない奇跡。

 その結晶であるT.S.U.K.U.M.O.システム。

 そのルーツが、一人の女の子。

『だから、もしかしたらヒメみたいな見た目はT.S.U.K.U.M.O.っていう技術と相性がいいのかもね』

「ヒメムラサキは、どうしてそういう見た目なの?」

 神崎奇跡の少女時代にそっくりの、その見た目は。

『ああ、うん。それがね、今からヒメが話す、奇跡と出会った日の話だよ』

 そう言って、ヒメムラサキはゆっくりと語り始めた。